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名古屋高等裁判所 昭和57年(行コ)6号 判決

控訴人(原告) 大同酸素株式会社

被控訴人(被告) 名古屋市緑区長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2(一)  被控訴人が控訴人に対し、昭和五一年四月一五日付でなした左記(1)ないし(15)記載の各電気税賦課決定処分に係る更正税額中、各増差税額に係る部分を取り消す。

(年月日)    (更正税額)   (増差税額)

(1)  昭和四九年五月分   三四三五円   一九四三円

(2)  同 年六月分   三万八三七九円 三万四八九〇円

(3)  同 年八月分   九万一六七四円 八万七九三一円

(4)  同 年九月分   六万五八一二円 六万二一三三円

(5)  同 年一一月分  四万一三三五円 三万七五二五円

(6)  同 年一二月分  一万四一二〇円 一万〇一四〇円

(7)  昭和五〇年一月分 六万四三六八円 六万一五四四円

(8)  同 年三月分     三九六五円    六八二円

(9)  同 年六月分   一万四五六五円 一万一五二六円

(10) 同 年七月分   五万六二〇六円 五万三一〇〇円

(11) 同 年八月分   五万四九五〇円 五万一八一九円

(12) 同 年九月分   九万二四二六円 八万九四一二円

(13) 同 年一〇月分  二万二四五八円 一万九二五九円

(14) 同 年一一月分  二万一二二一円 一万八四二四円

(15) 同 年一二月分  二万二二四五円 一万九三二〇円

(二)  被控訴人が控訴人に対し昭和五一年四月一五日付でなした昭和五一年一月分に対する電気税賦課決定処分に係る二万五七〇九円の税額中、二万二九二三円(申告税額二七八六円をこえる部分)を取り消す。

(三)  被控訴人が控訴人に対し、昭和五一年五月一四日付でなした昭和五一年二月分に対する電気税賦課決定処分に係る一万九一四七円の税額中、一万六〇五三円(申告税額三〇九四円をこえる部分)を取り消す。

(四)  被控訴人が控訴人に対し、昭和五一年六月一二日付でなした昭和五一年三月分に対する電気税賦課決定処分に係る二万八〇〇八円の税額中、二万五〇四五円(申告税額二九六三円をこえる部分)を取り消す。

(五)  被控訴人が控訴人に対し、昭和五一年七月一四日付でなした昭和五一年四月分に対する電気税賦課決定処分に係る一万七九三三円の税額中、一万五四一九円(申告税額二五一四円をこえる部分)を取り消す。

(六)  被控訴人が控訴人に対し、昭和五五年五月一二日付でなした昭和五五年三月分に対する電気税賦課決定処分に係る二八万六九一三円の税額中、二八万二八七〇円(申告税額四〇四三円をこえる部分)を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決。

二  被控訴人

控訴棄却の判決。

第二当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠関係

一  次に付加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決六枚目裏一〇行目及び同一七枚目裏末行の各「自治T市発」をいずれも「自治丁市発」と改め、同二三枚目裏七行目の「(一回)」を削り、同一〇行目の「九号証」の次に「一ないし三」を加え、同二四枚目表五、六行目の「(二回)」を削る)。

二  控訴代理人の陳述

1  窒素製造の用に使用した電気については明文の非課税規定がなくとも電気税は課せられない。即ち、昭和二二年当時国税であつた電気ガス税は地方税に切り替えられたが、工業用電気については電気ガス税を非課税にする明文は存在しなかつたものの、実際には非課税であつた。これは酸素及び窒素が原材料であるから、原料課税を回避するためであつた。

なお、窒素製造の用に使用される電気について非課税の明文規定が設けられていないのは、(1)窒素については非課税であることが昭和二四年「第五回国会衆議院地方行政委員会議録第三九号」の政府確認事項により明らかであること、(2)窒素化合物について個別的に非課税規定を設けていること、の二つの理由による。窒素化合物について個別的に非課税規定を設けているのは、原材料である窒素は当然に非課税であることを前提にしているものといわなければならない。

2  被控訴人は担当官が昭和四九年三月に控訴人に対し窒素製造分に使用される電気について「課税される旨」告知しているから、信義誠実の原則は適用される余地がないと主張するが、右告知は課税処分でないから、信義誠実の原則の適用とは関係がない。控訴人は被控訴人が本件電気税賦課決定処分に係る更正処分を行なつた昭和五一年四月一五日前の課税処分に対し、信義誠実の原則を援用する。

三  被控訴代理人の陳述

1  控訴人の右1の主張は争う。電気税はそれが昭和二一年地方税法の一部改正により府県の法定外独立税とされて以来今日に至るまで、一貫して電気の使用に対しては一般的に課税することを原則とした上で、例外的に特定の用途に使用する電気に限り非課税としてきたのである。したがつて、原料課税となることを理由に、窒素の製造の用に使用する電気については、法令の明文規定がなくとも当然に非課税であるという控訴人の主張は、現行地方税法はもちろんのこと、それ以前の電気税に関する諸法令の解釈ならびに歴史的事実に照らしても、全く根拠がない。

2  同2の主張も争う。

四  証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本訴請求はすべて失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正・付加する外、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決二七枚目表二行目の「基準と」を「基準に」と改める。

2  原判決二七枚目裏一行目から同六行目までを次のとおり改める。

「なお、成立に争いのない乙第三号証の五により認められる三五年回答の内容は、右四三年回答も念頭に入れると、要するに、窒素やアルゴンガス製造の用に供する電気については当然課税されることを前提にした上で、酸素の製造工程における電気税の非課税範囲を具体的に明らかにしたにすぎないものというべきであるから、前記三五年回答をもつて窒素非課税を根拠づけることはできない。」

3  原判決二八枚目表一〇行目と同末行との間に次のとおり加える。

「3 控訴人は、窒素製造の用に使用する電気について非課税の明文規定が設けられていない理由として、(1)窒素については非課税であることが昭和二四年「第五回国会衆議院地方行政委員会議録第三九号」の政府確認事項により明らかであること、(2)窒素化合物について個別的に非課税規定を設けていること、の二点を挙げている。

しかしながら、まず(1)の点については、成立に争いのない甲第一七号証(第五回国会衆議院地方行政委員会議録第三九号)を一読すれば明らかなとおり、右国会においては燃料用ガスの使用に係るガス税について、工業製品を製造するためのガスの使用につきガス税が課されるか否かが論議されたのであつて、本件で問題になつているような、当該ガスの製造の用に使用された電気につき電気税が課されるか否かについては全く論議されていない。次に(2)の点については、窒素化合物についても法四八九条一項により非課税措置がとられているのは、重要基幹産業にかかる製品等で国民経済に与える影響が強く、かつコストの中に占める電気料金の割合の高いものについてであつて、そのすべてではない上、成立に争いのない甲第一四号証、原審証人田靡俊明の証言によれば、昭和三〇年以降窒素の需要が増大したのは、石油化学工業の面でその不活性を利用して爆発防止に使用したり、電子工業の面で半導体の不純物の窒化ないしその混入防止に使用したりする外、液体窒素を食品の急速冷凍に使用するとかの利用法が開発されたためであることが認められ、これらは必ずしも窒素が他の工業製品の原料としてのみ使用されているとはいえないことを明らかにしている。

それ故、控訴人の挙げる前記二点をもつて、窒素はそれ自体製品ではなく常に原材料であるから明文の規定がなくとも非課税であるとの控訴人の主張を根拠づけることは困難であるといわなければならない。」

4  原判決二八枚目表末行の「3」を「4」と改める。

5  原判決二九枚目裏八行目の「七号証の一、八号証の一、二、」を削り、同末行の「乙七号証の一ないし三、」の次に「いずれも原審証人谷口義郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証の一、第八号証の一、二、」を加え、同三〇枚目表末行の「賦課第二係長」を「賦課係主事」と、同三一枚目表六行目の「訴外鈴木の後任者訴外杉山」を「名古屋市財政局主税部税務管理課第二係長杉山三郎」と、同裏七行目の「前任者」を「前記」と、同三二枚目裏一行目の「並行線」を「平行線」と、同三三枚目表七行目の「被告の担当官」を「前記杉山の後任者」と、同三四枚目裏一〇行目の「奏功」を「奏効」とそれぞれ改め、同三五枚目裏五行目と六行目の間に行を変えて次のとおり加える。

「さらに、前記認定にかかる事実関係の下においては、本件更正処分のなされた昭和五一年四月一五日前の課税処分に対しては信義誠実の原則が適用されるという控訴人の主張も理由がない。」

二  そうすると、右と同旨の原判決は相当である。

よつて、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 井上孝一 喜多村治雄)

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